長物の枯れ葉を集めていたら海馬からマラムレシュの光景が蘇った。
地面にひざをつき土に触れていると、海に入ってはしゃいでいる時のような
何ともおおらかで愉快な感覚になる。そうか、私にとってここは海なんだ。
庭に浮き玉や貝殻を置く趣味も、であれば理解できる。土でできた海は溺れる
心配がない。土中から太いみみずが出てくると、おぉ何とよく肥えた肥沃の
... 大地よ... あーやっぱここ海じゃない陸だわと我に返ったりしながら庭の
手入れは進んでゆく。
最近は森の手前にある通称‘トムソーヤの小屋’周りの整えに乗り出した。
(いつか写真を載せます)
タカノハススキの立ち枯れたままだったもの、昨秋に刈りとった長物
(と呼んでいる)の葉ものを熊手やレーキで集めては枯れ草置き場に
運んでいるうち、ふと。これってマラムレシュで見かけた光景じゃない?
よく見ると、いっぬ。
海馬から蘇った、牧草を刈り取り運ぶマラムレシュの美しい光景。
頭の中ではこんなイメージ。
海馬(カイバ)はタツノオトシゴのような形をしている。脳の中で、新しく
取得した情報はこの海馬でファイリング(整理整頓)されてから、記憶の倉庫
である大脳皮質にたまって行くという。であればマラムレシュを訪れたのは
昨年の6月だから、海馬というより大脳皮質から蘇ったものかもしれないな。
何よりやっぱり、海なのである。
空き家だった伝統建築を改修した宿。
屋根の目のような形は COW'S EYE(雄牛の目)と呼ばれマラムレシュ地方で
よく見かけた。猛々しい雄牛の目で各家を守るとされ、古くはこの窓が侵入者
を防ぐ見張りの役目も担っていたそうだ。
マラムレシュはルーマニアの奥地、ウクライナとの国境にある山岳地帯だ。
昔の建物がそのまま残り、昔の生活様式で暮らす人たちのいるこのエリアは
「生きた博物館」と表現される。確かに、これまで各地の民族博物館で見て
きた建造物や壮麗な木工芸が施された柱のある家屋が並び、そこで人々が
ふつうに暮らす光景は、遡った時代にタイムスリップしてしまったかの
ような不思議な錯覚に陥る。
宿の中はルーマニアン・カントリー
昨年、滞在したこの宿の周りでは実際の農作業が行われていた。と言うより、
地元の人にすれば、仕事場にあった空き家がある時ゲストハウスになって
外国からも観光客が訪れるようになった。しかもかなり喜んでいるよね、と
いった感じだろうな。
ここは連れて行ってくれた人も辟易とするような奥まった悪路の先にあった。
運営しているのはルーマニアのヒッピー的ライフスタイルを送る若いファミリー。
レイヴ会場にいそうなサイケデリックなドレスに身を包んだ紫色の髪の奥さんの
タトゥーの蝶が印象的だった。敷地内には滞在した宿のような建物が点在し、
宿の受付兼ファミリーの住居、バー、レストランとロングハウスが3棟、
これから改修を予定している建物も何棟か見かけた。ファミリーはルーマニアの
地方都市クルージュナポカ出身。ここはマラムレシュから最も近い都市で、
車なら2〜3時間だ。ただしこの辺りで車を持っている人は少ない。道中で
何度もヒッチハイクする人を見かけた。公共交通機関もない辺鄙な場所では
ヒッチハイクが移動手段として普通にあって、乗る側も乗せる側も承知している。
トラディショナルな建造物に、なるべく伝統を残しつつ現代的な感覚で
取り入れられたインテリアが馴染む。
奥さんは「クルージュの家族からは、あなたのやっていることは理解できないと
言われているわ」と肩をすくめた。志を同じくする仲間とコツコツ取り組んで
いるとさらっと話してくれたけれど、これだけの建物を補修改修し、広大な
敷地の除草など維持するにもかなりの時間と労力がいるだろう。ご実家としては
収入の面でも心配なのであろう。「でも、私達はこの場所が大好きなの」。
日本と同じくルーマニアでも、その場所に魅了され、朽ちていくだけの建物を
改修保存する人たちがいる。
可愛いおばあちゃん
頭にプラトークをまきスカートをはいた東欧の可愛いおばあちゃん。大好きな
スタイルだ。スカートにエプロンというこの野良着スタイル、日本だと、
もんぺみたいなものだろう。おばあちゃん達は娘時代からのスカートを
こうして齢を重ねてもはいていて、それを「貧乏くさい」「ダサい」と感じる
タイプの人たちもいる。それは人の感性だから、その違いを楽しめばいいや。
とにかく、このスタイルは可愛い!
この鍬を持つおばあちゃんのように、年をとってもスカートをはいて
紫色のタイツをはける可愛い人でありたい。
ちなみに、みやこうせいさんの本を読むとマラムレシュに誘われます。
この、ゲゲゲの鬼太郎みたいなエプロンもマラムレシュ地方の民族衣装。
村で配色が変わるそうです。
桜が咲いたし雨も降ったし
ダーチャ小屋に家具を入れ、インテリアをあれこれ飾り付けていると
子供の頃に大好きだったままごと遊びの感覚になる。コロすけの影響で
自粛生活が長引きそうだ。先行きは不透明ながら店があるからこそ、
夢の領域で生きていられる。
雨の予報の日、桜の古木が開花した。晴れた日の桜色も美しいし
曇天のもと少しくぐもったような桜色もまた美しい。この桜の木は
80年前、回廊式庭園を造作した折に植えられたものだ。そう、
ダーチャの庭はもともとは和風庭園で、その名残に菖蒲や牡丹、
芍薬が毎年この時期になると芽吹く。
桜の木の下には可憐な花をつけた菫たち。さまざまなスプリング・
エフェメラル(春の妖精)に出会うたび、春だなぁと嬉しくなる。
庭の一角では、ほうれん草の芽も出てきた。前日、雨の降るのにあわせて
花の種まきをした。ハンガリー刺繍のモチーフになる草花やポピー、
矢車菊。いずれも2016年の種。どれだけ発芽するかわからないけれど
母が残した種なので、ひとつでも芽が出たらと思ってまいてみた。
2017年にまこうと母がとっておいた種。その年の夏、母はあちらの世界へ
帰って行き、2020年のこの時まで種は温存されていた。
夕方、予報から少しずれて雨が降り始めた。静かに穏やかに、雨が染み込んで
行く。ぬれた地面が深い色を帯びて行く。
真夜中に芽が出た玉ねぎのことが気になった
日中、芽が出た玉ねぎを植えたのだけれども、その植え方がどうもおかしいと
気になって眠りについたら夜中に目が覚めた。間違いなく、玉ねぎのことだ。
パソコンを開き『芽が出た玉ねぎ 植える』で検索をかけた。
あ。やっぱり植え方おかしかった。
この、ちょっといびつなハートに沿ってお芋を植えた。そして真ん中ににょきっと
伸びるねぎ状のものが玉ねぎの芽なのだけれども。違和感なわけだ。
おバカさん、このまんま植えないでよね❤(玉ねぎ・談)
だって、このまんま土に埋めたんだもの。さっそく、夜中に調べたやり方で
掘り出した土つき玉ねぎの皮をむいた。
芽が出ている部分までどんどんむく。小学生の実験という感じでおもしろい作業。
先程の芽を、さらに分けた。この3つに分かれた芽をそれぞれ土に植えつけた。
ここから秋まで経過観察。
落葉の間からエゾエンゴサクが水色の花をつけていた。スプリング・エフェメラルは
何て可憐なんだろう。花、葉、茎は食べられると聞くけれど、食べるほど咲いていな
いので収穫したことはない。
ケシ科キケマン属
学名 Corydalis fumariifolia subsp. azurea
和名 蝦夷延胡索
一列にすじまきした水菜の芽が出てきた。山鳩やほかの鳥たちに食べられず
無事に大きくなりますように。
ダーチャ小屋の窓に映る空。コロすけ感染拡大防止の自粛要請はゴールデンウィーク
あけも続くんだろうか。日差しはどんどん暖かくなる。
打ち捨てられたソ連時代彫刻のレクイエム
瀬戸内寂聴のコラムで、飛行機内で隣に座るのはどんな人だろうと
思ったら、格好いいブーツの足元、これは当たりと見上げたらそれが
辻仁成だったので大変楽しいフライトになったというのがあった。
すごくわかる。 飛行機で隣同士になったからと言っていつも話が
盛り上がるわけではない。日本人同士でもフライト中に交わした言葉は
お手洗いへ行く時の「すいません」くらいだったという事もままある。
モスクワ行きアエロフロート航空内。荷物棚へバックパックを入れようと
もがいていたら「お手伝いしましょうか」と丁寧な口調の日本人男性が
声をかけてくれた。そうか、お隣さんはこの人なのかと有り難く親切を
受け席についた。ロシアの法律を日本人留学生に教えている人だった。
ふだん接することのない法律の世界やロシア在住者ならではのエピソード
など、育ちの良い穏やかな話し方も相まって大変楽しいフライトになった。
トレチャコフ美術館新館近く。車道の向こう側はモスクワ川。
この男性に「時間に余裕があったら」と教えてもらったおもしろい場所。
それが Muzeon Art Park だった。
トレチャコフ美術館新館前
仕入れ後半、雨の降る悪天候。こういう時は無理に動き回らず予定変更。
「もしも時間があったら」リストに入れておいたトレチャコフ美術館‘新館’
(Tretyakov Gallery)へ行く事にした。トレチャコフ美術館には本館と
新館があって、本館はサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館と
同じく1時間は並ばないと入れない。が、カンディンスキーやシャガール
(フランスの画家だと思っていたらベラルーシ出身だった)、グルジア
絵画など、ロシアでもより個性的でアヴァンギャルドな現代美術が収蔵
される新館は、そうでもないというから肩すかし。
しかも、教えてもらった「おもしろい場所」は、この新館裏にある公園だった!
いつも思うけど岡田真澄とスターリンは他人の空似を越えているよ。
ロシアではソ連時代の片鱗に触れる機会が多くある。プロパガンダアートを
アイコン化したリプロダクト製品(Tシャツ、グラス、マトリョーシカ等)
など。空港のスーベニールショップでは宇宙飛行士ガガーリンと一緒に
レーニンのTシャツが並んでいたりする。割り切ったポップアイコン化。
国としてのあっけらかんとしたたくましさを感じる。
飛行機で隣になった男性が教えてくれたのはリプロダクトではなく、
本物のソ連時代の忘れ形見に触れられる場所。それが Muzeon Art Park だ。
ここにはレーニンやスターリンをはじめプロパガンダに用いられたソ連時代
の彫刻物が多数、収集展示されている。
ソ連が崩壊すると、長年溜まった鬱積を晴らすようにロシア各地で時の
権力者の彫刻が壊されたり、撤去されたりした。(撤去されてこの頻度?
というくらいロシアを歩くと彫刻が多いけれど...)行き場を失くした
ソ連時代の迷惑な遺物を一箇所に集めようということで選ばれたのがこの
公園だった。いわばここは、打ち捨てられた彫刻物のお墓なのだ。悪天候で
歩く人もない裏寂しい公園内には、首のない彫刻なども無造作に置かれて
いた。その光景はまるで、行き場を失ったもの達のさいごの安息地、
レクイエムの場なのだった。
ガラスの苗帽子
1週間前にいただいた大きな桜の枝。こんなに大きな枝をいけるなんて
そうそうないことなので、切らずにそのまま投げ入れた。いけばなで
いう投げ入れは自然調に花をいけることだけれど、この場合は作為
なし。つぼみがふっくらふくらんで、淡いピンク色をしてきた。
咲いたらさぞ見事だろうな。
ペンキぬりたての匂いがするダーチャ小屋には家具が入り、人心地がしてきた。
今日の本題は、桜の枝の奥に見えるドーム状のガラス容器。ガラスの苗帽子。
苗帽子というのは春先、苗の霜よけ・寒さ対策に用いる園芸資材。文字通り、
本当に帽子のような形をしている。ってか、かぶれそうだ。日本では農協の
資材コーナーなどで透明プラスチック製が流通している。
あれを使ったことも使ってみたいと思ったこともないのだけれど、ガーデン
に関する洋書でガラス製のベル型苗帽子を「ベルクロッシェ」と紹介してい
るのを見て、どうしても欲しくなった。用途で考えればプラスチック製の方
が軽くて取り扱いやすいのは百も承知しているのだけれど、土の上に置かれた
ガラスの中に苗がいるという絵を想像すると、何とも愛おしい。
で、わざわざイギリスまで行った話はまたいつかの機会にするとして。
このガラスの苗帽子はチェコスロバキアの農家で使われていたもの。イギリスの
庭園美術館でも農家の苗帽子でまったく同じものが展示してあった。
この苗帽子に、チェコのガラス工芸の薔薇を入れたら『星の王子さま』
みたいになった。
星の王子さまでは、世界には実はたくさんの薔薇の花があったことを知り
落ち込む王子さまに、キツネが「きみの薔薇が、きみにとってかけがえの
ないものになったのはきみが薔薇のために費やした時間のためなんだ」と
話すシーンがある。サン・テグジュペリの紡ぐ言葉はシンプルで心に響く。
根が出たにんじんのヘタにガラスの苗帽子(ベルクロッシェ)
これは先日の記事のにんじん。
ベル型の苗帽子を根が出たにんじんのヘタの霜よけにしている。
朝とりはずして夜またかけるを繰り返す。このシンプルな動作のうちに、
にんじんへの愛情が着実に育まれて行くのを感じる。単なる自己満足
だけれども家で過ごす時間のふえた今、この作業が愛しくてならない。
お子さんがいるならお子さんも一緒に。ひとつの苗を、ガラスの苗帽子
でお世話してみてほしい。きっと喜びがふえます。
終雪 春になってさいごにふる雪
早朝、寒いなーと思って目が覚めた。窓から外を見て、一瞬、
冬のはじまりに戻ったような不思議な感覚に陥った。
4月も下旬にさしかかるというのにまた雪が降った。
春の雪、朝4時半頃の風景。
冬の終わり、春の始まりにふる雪を 終雪 というそうだ。
種まきしたばかりなのに真っ白になった庭を見て「ホント油断
ならない」と思う。札幌は1941年5月25日に観測された降雪が
最も遅い終雪だそうだ。今朝だってタイムスリップしたかと
思ったんだから、当時の人は天変地異でも起きたかと驚いたんじゃ
ないかなぁ。
タイムスリップといえば、ダーチャ小屋にも古い柱時計や昔の電話と
年代物が点在している。小屋自体が80年ほど経っているのだから
ここで佇んでいると、建物も家具も自分もすべてが粒子になって
空気中を漂っているような感覚になる。
さすがに雪はとけたけれど、日中もずっと雪が降っていた。
夕方、まわったスーパーや薬局には「ソーシャル・ディスタンス」の文字、
手洗いうがい咳エチケットを推奨する放送が流れる。レジまわりには
飛沫よけのビニールがはられスタッフの人たちはビニール手袋をしている。
自分も含め誰もがマスクをして、人との距離に気をつけている。
その光景を見ていたら、これもまたタイムトラベルの一環のような気が
してきた。
今も一見は日常生活を送っているようだけれど、スーパーや薬局は
あいていても同じ敷地内のスターバックスは閉まったままだ。
コロすけ感染拡大抑止の入国拒否に、ロシアや中東の国々も追加される
ことになった。これで入国拒否は80カ国になる。少し前まであんなに
近かった世界がどんどん遠くなっていく。少しずつ、当たり前だった
ことが特別なことへと切り替わっていく。
野菜、再生。キッチンガーデンのすすめ
まだ雪のこる3月。前月、最愛だった猫のしまくんとの突然のお別れで
うつうつしていた気分を転換しようと、窓辺にキッチンガーデンを
つくりました。
つくりました、って言っても水にさしただけだけどグリーンに癒やされる
料理ででた にんじんのヘタと、スーパーのスプラウトコーナーの豆苗
(とうみょう:えんどう豆の若芽)。豆苗は株が大きかったので
ふたつに割って、それぞれガラス容器に入れて水に浸した。あとは
日当たりのある場所(うちはキッチンの窓辺)に置いておくだけ。
気温や日当たり条件によるけれど、いちばん下の新芽の部分を
残すように刈り取ると、数日後にまた収穫できるくらい伸びます。
これは野菜のヘタや根など、通常は捨ててしまう部分を捨てずに
再度、成長させ収穫するいわゆる再生野菜。リボベジ
(リボーン・ベジタブル Reborn vegetables)とも呼ばれます。
代表的な野菜に大根、にんじん、ねぎ、豆苗など。水に浸ける、
土にさしておくだけで葉や根が伸びて再び野菜が収穫できる、
簡単で場所をとらない野菜の栽培方法。家の中でできる最も
シンプルな家庭内菜園。
さしていたにんじんのヘタに根がはったので、土に植えてみました。
この辺りまだ雪がちらつくので、朝晩、寒くないようベルクロッシェ
(ガラスの苗帽子)をのせてます。ちなみに奥の葉は水仙、チャイブ、
手前の鈴蘭みたい葉は行者にんにく。水仙だけ、食ベルナ危険の
猛毒植物なので気をつけなさいよとこの園芸スペースを見かける
諸先輩から有難きアドバイス。
ベランダのある人はベランダで、ない人は玄関などで、プランターに
土を入れてやってみてください。プランターがなければビニール袋でも
OK。可愛いデザインの袋に入ったにんじんの葉が伸びるの、見ている
だけでテンション上がります。
クリームチーズとパプリカににんじんの葉をのせたトースト
にんじんの葉は刻んでスープに入れたり、生のままサラダでも食べられます。
葉の形が良いので見た目も可愛く幸せ。
ミートソースとチーズがけライスに にんじんの葉・豆苗を添えて
辛味のあるハンガリー産パプリカペーストをのせた昨日のランチ。
ちょっとグリーンを添えるだけで美味しさ倍増しますね。
味覚、嗅覚だけではなく、人は五感で食事を味わっている。
学名:Trillium smallii Maxim
和名:延齢草
英名:Wakerobin
で、今、森はスプリング・エフェメラルが顔を出しているので
ワンプレートを手に、奥の森でおうちピクニック。
空を見上げるとこもれびと樹影。鳥のさえずりに時折まじる
車や飛行機の人工音も人心地がする。川のせせらぎや鳥の声など
自然音だけのアトモスフィア音楽があるように、人の暮らしが
息づく人工音もまた現代的と思う。
ごちそうさまでしたー!
YouTubeに、 再生野菜のやり方について、
とてもわかりやすい動画があったので貼っておきまーす。