妖精の杯
雪どけ。
春だよ、春が来た。
庭に出ると、たち枯れたまま雪の下になった植物たち、
その上に折り重なる森の落ち葉が一度に現れました。
そうだ仕事であわただしくて、一息つい頃すでに庭は
雪の下だったんだ。昨年の秋冬のことをあれこれ思い出しながら
落ち葉を集めて土にすきこみ、枝払いしたままだった小枝と一緒に
枯れ草コーナーへ運びます。
朽ち木や落ち枝の上に残るシャーベット状の雪。
枯れ草の間で新緑が芽吹き、その横にとても鮮やかな真っ赤なものが。
どこからか飛んできた破けたビニール袋の切れ端かなと近づくと、
きのこでした。
ベニチャワンタケ
ベニチャワンタケ科
学名:Sarcoscypha coccinea
英名:the scarlet elf cup(スカーレット・エルフ・カップ)
早春の広葉樹林で見られるきのこで、英名のスカーレットは
黄色みの強い赤色のこと。そしてエルフは妖精。カップは杯。
妖精の杯。タロットカードの聖杯の絵が連想されます。
見つけたベニチャワンタケはだいぶん大きくなったもので
通常はとても小さいと説明書きにありました。
翌日、別な場所で見つけました、小さな小さな妖精の杯。
ちょうど小枝についていたので、こびとの所にそっと置きました。
ふと、もしかしてこれまでも毎年、出ていたんじゃないかなと
常に何かに追われるようにあくせくと駆け足だった日々に
想いがめぐります。これまでも、この豊かな環境にくるまれ暮らして
きたはずなのに、見ているようで見ていなかった、
感じているようで感じていなかった。
ようやく、妖精がさしだしてくれる杯に気づいた
この春はあまりにゆったりしています。