地球にキスをする
ここは場所柄、ウォーキングと犬の散歩をする人が多い。
まぁ、多いと言っても田舎にしてはと付け足しておこうかな。
ご近所にベルギー人のワタナベさんという方がいて、彼女も犬のビリーと
散歩している。会うとときどき、立ち話をする。
昨年、ルーマニア渡航の前日に寝間着のまま慌てて庭の植物たちの世話を
していたら、通りかかったワタナベさんが「いいよ、いない間みておくよ」
と声をかけてくれ頼もしかった。
ダーチャ小屋を修繕してくれるMさんと3人で話していた時、奥の森に咲く
水芭蕉の話題になった。毎年、早春になると咲く炎のような姿をした
力強い花。スプリング・エフェメラル(春の妖精)のひとつだ。
「今年も見たいね」ふたりとも、水芭蕉を見るのを楽しみにしている。
会話を聞いていたMさんが、水芭蕉に芳香があることを教えてくれた。
あれ?そうだっけ?毎年、嬉しく観賞しているはずなのに香りのことは
意識していなかった。
2020年の水芭蕉は小さめ。そして群生がとても少ない。
学名:Lysichiton camtschatcensis Shott
和名:水芭蕉
英名:White skunk cabbage
今年の水芭蕉は小さく、少ない感じがする。例年より雪が少なかった
からか湿地の水かさも低い。でも、よく今年も咲いてくれました。
さっそくいちばん川べりの水芭蕉に顔を近づけると、ほんとだ。
ふわっと甘い香りが漂ってきた。
水芭蕉の炎みたいな白い部分は変形した葉の一部で、花は黄緑色の円柱
部分。よく見るとたくさんの小花がついている。学名に camtschatcensis と
あるように、シベリア、サハリン、カムチャッカ半島から日本に分布する。
シベリアやカムチャッカの水芭蕉は大きそうだなと、勝手なイメージ。
ただ英名を見るとスカンクの文字。スカンクといえばあの、
混同されているらしい。ザゼンソウの匂いは強烈だそうなので
どこかでお目にかかったら勇気を出して顔を近づけてみよう。
水芭蕉を見に、ワタナベさんがやって来た。
「良い香りだった」と伝えると、「そう?!」
わくわくと顔を近づける時、
「あぁ、これは Kissing the Earth だね」と言った。
たしかに、ひざまづき水芭蕉に顔を近づける時の仕草は
まるで、地球にキスをするようだった。
自分もこの仕草をしたんだなと思うと何だか嬉しかった。