ガラスの苗帽子
1週間前にいただいた大きな桜の枝。こんなに大きな枝をいけるなんて
そうそうないことなので、切らずにそのまま投げ入れた。いけばなで
いう投げ入れは自然調に花をいけることだけれど、この場合は作為
なし。つぼみがふっくらふくらんで、淡いピンク色をしてきた。
咲いたらさぞ見事だろうな。
ペンキぬりたての匂いがするダーチャ小屋には家具が入り、人心地がしてきた。
今日の本題は、桜の枝の奥に見えるドーム状のガラス容器。ガラスの苗帽子。
苗帽子というのは春先、苗の霜よけ・寒さ対策に用いる園芸資材。文字通り、
本当に帽子のような形をしている。ってか、かぶれそうだ。日本では農協の
資材コーナーなどで透明プラスチック製が流通している。
あれを使ったことも使ってみたいと思ったこともないのだけれど、ガーデン
に関する洋書でガラス製のベル型苗帽子を「ベルクロッシェ」と紹介してい
るのを見て、どうしても欲しくなった。用途で考えればプラスチック製の方
が軽くて取り扱いやすいのは百も承知しているのだけれど、土の上に置かれた
ガラスの中に苗がいるという絵を想像すると、何とも愛おしい。
で、わざわざイギリスまで行った話はまたいつかの機会にするとして。
このガラスの苗帽子はチェコスロバキアの農家で使われていたもの。イギリスの
庭園美術館でも農家の苗帽子でまったく同じものが展示してあった。
この苗帽子に、チェコのガラス工芸の薔薇を入れたら『星の王子さま』
みたいになった。
星の王子さまでは、世界には実はたくさんの薔薇の花があったことを知り
落ち込む王子さまに、キツネが「きみの薔薇が、きみにとってかけがえの
ないものになったのはきみが薔薇のために費やした時間のためなんだ」と
話すシーンがある。サン・テグジュペリの紡ぐ言葉はシンプルで心に響く。
根が出たにんじんのヘタにガラスの苗帽子(ベルクロッシェ)
これは先日の記事のにんじん。
ベル型の苗帽子を根が出たにんじんのヘタの霜よけにしている。
朝とりはずして夜またかけるを繰り返す。このシンプルな動作のうちに、
にんじんへの愛情が着実に育まれて行くのを感じる。単なる自己満足
だけれども家で過ごす時間のふえた今、この作業が愛しくてならない。
お子さんがいるならお子さんも一緒に。ひとつの苗を、ガラスの苗帽子
でお世話してみてほしい。きっと喜びがふえます。